2016年2月6日土曜日

書評:本谷有希子『異類婚姻譚』

さて、芥川賞自体のお話は別投稿でしたので、早速素直に本谷有希子『異類婚姻譚』の書評します。


内容はかなり読みやすい、話自体も短いし、オチを含めたストーリー展開も短編小説のそれ、という感じ。なので集中して読んだら多分1時間位で読めちゃう。

もう少し書くと、主人公の"サンちゃん"の目線で、普段の主婦としての生活をベースに話が進んでいく。登場人物も名前のある人は主人公とその旦那、弟、弟の彼女、近所のおばさん位で、そういう人たちとの間の(あくまで日常生活としての)事件が書かれつつ、オチまで向かう。


オチを読んで、まず真っ先に感じたのはタイトルの巧さ。『異類婚姻譚』ってまさしくだなーって思った。何というか、仏教説話とかでありそうなオチ。だから"譚"っていうのがすごいしっくり来る。現代の事を書いているんだけどね。

あと、本谷有希子の小説のタイトルは結構上手い、もしくは面白いと思うことが多い。『ぬるい毒』とか『腑抜けども、哀しみの愛を見せろ』とかね。

後々調べて知ったんだけど"異類婚姻譚"という名称自体は一般的なものみたい。
日本の説話であったり、他の国の神話であったりの中で、「人間と人間以外のものが結婚する」物語って確かにあるけど、それらの物語を総称して"異類婚姻譚"というんだって。
造語だと思ってたよ…


で、本谷有希子の『異類婚姻譚』の中で描かれる「異類」というのはそう、自分の旦那です。本谷有希子自身が結婚を通して感じたものが描かれている、と何かのインタビューで聞いた気がします。

自分の配偶者って確かに、「最も近い存在でありつつも永遠に理解出来ない存在」みたいな事よく言われるし、確かにそれは分かる。
まぁ、ずっと近くにいるわけなので「他人だなぁ、こいつ」って認識する機会がそもそも1番多いからそういう事が言われるんだろうなぁと自分では思っているけれど、異類と言われれば異類だよね。

(そして何故か、配偶者って自分と同じタイプじゃなくて異類な事が多いよね。ウチもそうだし周り見ててもそう。なんでだろ、遺伝子とか生物学的な裏付けがあんのかな?偉い人、教えて!!)

小説の中では旦那の異類感はかなりデフォルメされて書かれていて、それも何か説話とかでありそうだなって感じ。多分、芥川賞の選考理由としてはこのデフォルメの描写の説得力が大きかったんだと思う。結構、滑稽な感じで上手く描写されていて、視覚的にイメージ出来る。その当たりが(芥川賞的な意味で)順当だなと思う。


もう一つ、大きな特徴としては、今までの本谷有希子の小説とは柔らかさというか何というか、雰囲気が結構違うなと思った。これも結婚したりで人間が丸くなったというやつなのかな。
今までのやつはどこか刺々しい感じというか尖った感じというか、言い表しがたいけどそういう雰囲気をまとった小説が多かったし、「劇団の看板背負いながらヤンチャに小説書いてる人」的な印象だったんだけど、『異類婚姻譚』ではそういう尖った感じが全然ない。
それは一つは読みやすさに繋がっていて、色んな人に読みやすい小説になったんだど思う。片一方では、ヤンチャ感が無くなっていて個人的には少し寂しかったりもする。
(川上未映子も同じような変遷を感じた)

とはいえ万人に読まれる事は大切だし、今回のやつとかは正に夫婦で読んでお互いどう思ったかを話すのは割りと面白そうだし、そういうネタに出来るような間口の空いた仕上がりになっている。僕も嫁に読まそうとしてるし。

という具合の第154回芥川賞受賞作。
少なくとも『火花』の5倍は読みやすいと思うよ!『火花』は相当純文学的な文章だし。


なのでちょっと気になるand小一時間を割ける人、夫婦で小説をシェアしたい人は読むといいでしょう!


おしまい。

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・関連するブログ → 第154回芥川賞雑感
・関連してないけど読んで欲しいブログ(気合入れて書いて結構面白いと思うんだけど、PVが伸びなくて…) → 書評:『ケトル vol.27 松本清張が大好き!』+松本清張の短編幾つか
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