2017年1月16日月曜日

書評:「文庫X」こと、『殺人犯はそこにいる』:1人でも多く読むべき本

※このブログはネタバレを沢山含みます

昨年「文庫X」として話題になった本の事をみんな知っているだろうか?


盛岡のさわや書店フェザン店の長江さんという方が2016年7月21日から企画で、本の表紙を隠し、なんの本か分からない状態で紹介文だけを載せて販売するという企画だ。


「文庫X」と『殺人犯はそこにいる』が変えるもの

書名が公表される前から本の特集などに登場したり、話題になっていたが、12/9に書名が公表されて、企画を始めた意図が発表されてから、より一層話題になった。

そして今書店で買おうとすると、「あの「文庫X」はこれ」みたい売り出しとともに長江さんの紹介文に包まれた本書を見つけられる筈である。


僕もその話題性に便乗し、「多くの人に読んでもらいたいからこそ、書名を隠した」と言わせた本というのはどんなものなのだろうと思い読んだ。
引き込まれるようにしてページをめくり続け、結局1日で読了したのだが、読了してみると長江さんの「どうにか多くの人に読んでもらいたい」と思いがよく分かった。

「これは紹介して、バトンを回すべき本だ」というのが分かったものの、一方で書名も明らかにされている今、「この読後感の重い(というかすっきりしない)ものをなぜ人に読ませるべきと思うか」も織り交ぜて書きつつ、次の読む人に繋ごう。

---  以下、ネタバレ。 ---

まず、読後感を一言で言うなら「カフカの小説でも読んでるんじゃないか」だ。むしろそうあって欲しいと思うほどに、読後感は釈然としない。

本書では、5件の未解決事件について「幼女連続誘拐殺人事件」ではないかと推定し、本格的に調査してゆく過程と結果が記されている。

話の発端は、"群馬県と栃木県の県境の半径10km"という狭い範囲で、幼女誘拐殺人、幼女行方不明の事件が5件もある事を、著者がたまたま発見した事だった。
この偶然の発見から、全てが始まったのだった。

この時点では、5件のうち3件はそもそも菅谷利和さんという人が「犯人」として捕まっており、5件という括りで連続性がある事件だとは、誰も(もちろん警察も)みなしていなかった。

しかし、筆者は"5件は連続事件に間違いない"と踏み、独自に調査を開始した。

そこから、執念の調査と遺族・関係者の協力により、「犯人」とされていた菅谷さんの冤罪を勝ち取り、更に"5件の連続事件"である可能性があることを認めさせたのだ。

凄い功績だ。冤罪により自由を奪われ、殺人者のレッテルを貼られた人を救ったのだ。
そこに至るまでの筆者や遺族やその他の関係者が費やした労力は計り知れない。

一方で、冤罪を勝ち取り、連続性のある事件だと認定されたとすると、真犯人がまだいる事になる。
真犯人を捕まえるまでは、事件は解決しないままだ。
普通ならば「真犯人を捕まえるための大きな前進だ」と考えるだろう。

だが、警察が真犯人を捕まえる気が無いとしたら、どうだろう。

どういう事かというと、真犯人はほぼ特定されているにも関わらず、捕まっていないのだ。

なんと筆者は、調査の中で真犯人の目星を付けており、警察に情報提供もしている。
だが、その風貌から「ルパン」と名付けられた真犯人は、捕まる事なく、今も自由の身でいる。
なぜ人物が特定されているにも関わらず、「ルパン」を捕まっていないのか。

理由は、警察の面子だ。

詳細は省くが、真犯人を捕まえる事で、警察は証拠に使っていたDNA鑑定の結果が誤りであった事を認めてしまうのだ。
それはこの事件で当初「犯人」とされた菅谷さんの誤逮捕だけでなく、今まで警察がDNA鑑定の結果を証拠としてきた、他の数多の事件の信憑性を脅かす。
最悪な事に、その中には死刑判決を下し、死刑を執行してしまった事件すら含まれる。

更に続ける。
「「犯人」として誤逮捕されたとしても、やってないと言い続ける事は出来なかったのか?」と思う人もいるだろう。

その疑問はもう一つの事実に繋がる。菅谷さんは当初「自白した」とされていたが、実際には取調べた刑事から強要された証言だったのだ。
後に事実が発覚すると不正な自白とされたこの自白は、菅谷さんが刑事のストーリーに沿った証言をするまで他の発言は認められず、延々と暴力行為を含む証言の強要が続いたらしい。

杜撰、かつ、非道な操作で「犯人」をでっち上げ、
冤罪を認めたもののその挙句、メンツのために真犯人は野放しにする。

「本書を1人でも多くの人に読んでほしい」とフェザン店の長江さんが企画し、多くの人に賛同され、読まれる事になった理由はこれだ。
そして僕が「カフカっぽい」と言った理由も。

ある日身に覚えのない罪で警察に逮捕される、殴る蹴る暴言吐くの誘導尋問で自白証言をあてがわれた挙句、「DNA鑑定の結果、一致したからキミに間違いないよ(合わない部分はトリムしたけどね)」と言われ、死刑になったり、刑務所で何十年も過ごす…

片や真犯人は野放し、「犯人逮捕」の喧伝の傍らで2人、3人、4人と被害者は増えていく…

と、こういう事が起きましたよという話だ。

「どんな不条理劇だ!脚本書いた奴出てこい。」と思わず言わずにはやってられんと思ってしまう。

散々ネタバレしてしまった…。
が、多くの人に是非手に取ってほしい本。
解決を願っている人達に、手を差し伸べるつもりで。

P.S. 他の書評も見てみたら、イケダハヤト氏もがっつり書いてたよ。購読してるのに知らなかったぜ…。

僕の書評よりも事実ベースand引用も多くて読み応えがあります、なにせプロガー界のトップランナーですからね。合わせて読んで下さい。


「足利事件」の真犯人は野放し状態。隠蔽された未解決事件「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を知っていますか


おしまい。

0 件のコメント:

コメントを投稿