2016年2月7日日曜日

【書評】都築響一『天国は水割りの味がする〜東京スナック魅酒乱〜』は道徳の教科書レベル!!

どうも、移動図書館管理人兼紙芝居師のどいけんです。

発表した2015本ベストでノンフィクションベスト3に選んだうちのひとつ、都築響一『天国は水割りの味がする〜東京スナック魅酒乱〜』を紹介します。書く書く詐欺を一つ解消!


都築響一が都内のスナック巡りをして、マスター、ママからインタビューした内容をまとめたのが、この本。
ウェブマガジンの連載で毎週1件巡っていたものをまとめたものという事で、総勢50店舗、文字にして10000字超、ページ数にして850ページ超という分厚さで、「この本で撲殺された人は天国のスナックに行ける!」とまことしやかに囁かれているとかいないとか、んな筈ないけど思わず信じてしまいそうな、見た目も中身も超濃厚な1冊です。

とはいえなんてったって50店舗分だもんで、1店舗ごとのインタビューは20ページ程度。
なので読んでいくと「あ、もうこのママのインタビュー終わり?」という感覚になっちゃいます。

むしろもう僕とかはもっと沢山読みたい派だったんで「いっそ『上下巻1,200ページ』とかにしちゃって、もっと一人ひとりのインタビューのボリュームを増やしても良いんじゃないか!」と思う位にこの本大好きです。(採算取れなそうではあるけど・・・)

登場するママ・マスターの半生については、この都筑さん自身がまえがきに記載している言葉が正にその通り。とってもいいところなので以下に引用します。

「お客さんがまだこない夕方の時間を選んでお邪魔して、薄い水割りとか呑みながら、ママやマスターの一代記を聞く。どうってことない町の、どうってことない店で、どうってことない小さな商売してるだけなのに、誰もが見事にドラマティックな半生を持っている。話してくれながら涙を浮かべるひとがいて、こっちももらい泣きして、しんみりしたり笑ったりしながらインタビューと写真撮影。そして「もう、お仕事いいでしょ、呑んでいきなさいよ」と言われてまた深酒。楽しくて、同時に考えさせられる時間を、いろんな町のいろんな店で味わった。」(p19)

いや、ほんと読んでいくと各人みんなドラマティック。
バブル、自殺未遂、自己破産、結婚、離婚、再婚、事故、遺産問題、詐欺などなど波乱万丈ワードもあちらこちらに織り交ぜられてるし、経歴も元歌手、料理人、OLに始まり留学生までいるバラエティ。

ずーっと読んでいくと、
「ああ、人ってどう生きてもいいから、生き延びていけばいいのだなぁ…」と、道徳の時間の最初に学ぶような当たり前過ぎる事が、本の物量と多種多様さとでもって腹わたに落ちる感じがします。道徳の教科書に使ってほしいレベルです。


全体の話はこんなところで、あとは、もっと具体的にご紹介という事で、読んでく中で特に印象に残ったインタビューの紹介を幾つかします。


□新宿二丁目『銀』のママ
この本のトップを飾るママ。新宿に30年以上お店を出し、昼間は絵画教室の先生、夜はスナックのママという暮らしをずっと続けているのだそうで、エネルギーに溢れています。

一旦OLになるも向いてないと判断してすぐ辞めたというママは竹を割ったような気性が話し方にも表れていて、サバサバとした切符のいい話し方。そんな一方で、店を選ぶときは昼、夜、夜中と何度も歩いて人の流れを読むという緻密・頭の良さも兼ね備わっている。

戦後の復興期に女学生として遊びまわり、新宿への出店とバブル前後を含めたその趨勢、そして現在と振り返る半生はまさに戦後の風俗史をそのまま沿ったような話。
読み始めたのっけからこんなママの登場で、グッと引き込まれる。


□赤羽『マカロニ』のマスター
そう、赤羽です。最近『東京都北区赤羽』がドラマ(?)化されて原作もちょっと話題になりましたね。


このマスターもすごいエネルギー量の人。でも、頭がいいというよりはどんな困難があっても突き進むブルドーザーみたいな人。
ほんとにこの人に降りかかった困難というのがすごくて、最初は料理をやるつもりはなかったらしいのですが、炭鉱で働いていた時に事故に巻き込まれて怪我をし、料理の世界に進みます。
そこで力を付けてから赤羽に店を持ち、ずっと続けて今に至るのですが、その傍ら、結婚、離婚が二回あり、それがもう縁者が関わっていたり、自殺未遂があったり、訴訟があったりでもう、脚本にすると逆に胡散臭いレベルで色々起きてます。

それと店名『マカロニ』のゆるさのギャップがまたたまりません。。


□中野坂上『万里子』ママ
ママはドイツ人と日本人のハーフ。インタビュー時、まだ30歳との事でママの年齢としては正直めちゃくちゃ若いと思う。そして美人だし。

なんでもドイツの大学在学中、京都大学に留学生としてやってきて心理学を学んだのが日本で暮らしたいと思ったきっかけらしく、その後ドイツに帰ったものの「日本に暮らしたい」という思いを捨てきれずに日本に戻ってきたのだそう。

学生時代からやっていた芸能活動をする傍ら、そのときたまたまスナックでバイト始めて、芸能活動をやめて外資系企業で働き始めたにも関わらず、楽しくて止められず、スナックでのバイトを続けていたんだって。
それで最終的にはスナックのママをやりたくて自分の店を出したんだということ。
その行動力と、自分のやりたいことをやり切る姿勢には考えさせられるところすらある、インタビューなのです。


□五反野→銀座『あすか』ママ
このママは生き様がパンク過ぎです。

なんでも、地元でバンドをやっていたときにイケメンホストの旦那と出会ってすぐ同棲して結婚したと。
超ナイーブで典型的な「思い悩む色男」みたいな旦那の元で専業主婦やってたんだけど仕事を探して東京に。
そこから色々仕事を探して流れていくまま気づけばキャンピングカーで放浪生活。
そして旦那は自殺した、と。。。

旦那、インタビュー読んでると、阿部薫とか、山田かまちとか、尾崎豊とかなんかそんな感じみたい。70-80年代に流行ったあの辺の匂いがプンプンする。多分年代もちょっと被ってる。
旦那もそうだしママも然り。前に鈴木いづみの娘のインタビューで、鈴木いづみが自殺するのを隣の部屋で見ていて「『ああ、やっぱりな。いつかはこうなると思った』って思って見てた」とか、悟り切った調子で言ってたんだけど、ママの悟り方も同じような感じ。

そして一人残されたママ。新聞配達の男の子とのプラトニック・ラブからホスト通い、そこから店を出し、自伝『愛の復讐』自費出版、という流れ。

また、この『愛の復讐』、描写が官能小説さながらで凄い。ちょっと抜粋が載ってる。
でもって元々は足立区五反野に店を構えていたんだけど、とうとう銀座に出店したんだそうで。。すげぇよな、一回行ってみたい and 『愛の復讐』読んでみたい。



その他にも、自己破産して…みたいなちょっとリアルにヤバい系のマスターとか、モンゴルスナック?みたいなところとか、カラオケマニアのおじいちゃんのお店とか、面白いの満載です。

立ち読みでもいいから、最初のはしがきと、一個目の『銀』を是非読んでみて下さい!

おしまい。

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【関連するブログ】
この本、去年のノンフィクションベストスリーに入れてます。→ 2015読んだ本まとめandベスト
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